「また液ダレか…」
「この微妙な糸引き、なんとかならないものか…」
生産ラインで計量ポンプと向き合うあなたから、そんな心の声が聞こえてきそうです。
こんにちは。
流体制御コンサルタントの響 丈(ひびき じょう)です。
これまで年間200件以上の製造現場を回り、数え切れないほどの吐出トラブルと向き合ってきました。
その経験から断言できることがあります。
それは、液ダレ・糸引きという現象は、必ず原因があり、そして必ず止められるということです。
この記事を読めば、あなたを悩ませるその厄介な問題の根本原因が分かり、明日から現場で何をすべきか、具体的な行動が見えてくるはずです。
もう一人で頭を抱える必要はありません。
私と一緒に、解決への一歩を踏み出しましょう。
目次
なぜ液ダレ・糸引きは止まらないのか?机上の空論では見えない「3つの真因」
トラブルが発生した時、私たちはついポンプの吐出圧や吐出時間といった「設定値」ばかりを調整してしまいがちです。
もちろんそれも重要ですが、多くの場合、問題の根っこはもっと別の場所に隠れています。
この現象は、本当に悩ましいですよね。
しかし、根本原因を理解すれば、闇雲にパラメータをいじる必要はなくなります。
少し遠回りに聞こえるかもしれませんが、まずこの3つの真因から理解していきましょう。
真因①:液剤の「ご機嫌」を理解していますか?(粘度と表面張力)
私が若手だった頃、高価な液剤の特性を軽視し、検証機の中で材料を丸ごとダメにしてしまった手痛い失敗があります。
この経験から学んだのは、「流体を制する者は、まず材料を制するべし」という鉄則でした。
あなたの扱う液剤は、まるで生き物のようです。
特に「粘度」と「表面張力」という2つの性質が、吐出のキレを大きく左右します。
液体の「粘度」というのは、ハチミツと水の「トロトロ具合」の違いだと思ってください。
トロトロの液体ほど、切った後も尾を引いて糸引きしやすくなります。
そして「表面張力」は、コップ一杯の水が盛り上がる、あの力のことです。
この力が強い液体は、ノズルの先端でまとまろうとするため、ポタっと液ダレしやすくなるのです。
これらの性質は温度によっても変化するため、季節や時間帯によってトラブルが頻発する、という場合は液剤の「ご機嫌」が変わっているのかもしれません。
真因②:装置は「正直」です(サックバックと圧力)
次に目を向けるべきは、装置そのものです。
特に重要なのが「サックバック」と呼ばれる機能。
これは吐出が終わった瞬間に、ポンプが液体をわずかに「吸い戻す」ことで、ノズル先端の液だまりを防ぐためのものです。
このサックバックの設定が弱すぎれば液ダレの原因になりますし、逆に強すぎると空気を吸い込んでしまい、次の吐出が不安定になることもあります。
装置は私たちの設定に、良くも悪くも「正直」に反応します。
その特性を深く理解することが、解決への近道です。
真因③:神は「一滴」に宿る(ノズル先端の状態)
神は細部に宿ると言いますが、こと吐出技術においては、神は「一滴」に宿るのです。
そして、その一滴を生み出す最後の砦が「ノズル」です。
最適なノズル選びは、書道家が最高の筆を選ぶ作業に似ています。
液剤の粘度や吐出量に合わないノズルを使えば、美しい線が描けないのと同じで、狙い通りの吐出は実現できません。
また、見落としがちなのがノズル先端の汚れや摩耗です。
ほんのわずかな傷や固着物が、液の流れを乱し、糸引きや液ダレを引き起こすことは珍しくありません。
毎日使う「筆」の手入れを怠ってはいけないのです。
明日からできる!液ダレ・糸引きを99%なくす現場改善の「5つの着眼点」
さて、原因が見えてきたところで、いよいよ具体的な対策です。
ここでは、私が数々の現場で効果を実証してきた、5つの着眼点をご紹介します。
ここは技術者の腕の見せ所ですよ。
- 「吸い戻し(サックバック)」を制する者は吐出を制する
まずは、サックバックの設定を再確認しましょう。
「液が垂れないギリギリの、最も弱い設定値」を探すのが基本です。
現在の設定値から少しずつ弱めたり強めたりしながら、ノズル先端の液の状態をじっくり観察してみてください。 - 液剤の「通り道」を見直す(最適なノズル選定)
もし可能であれば、ノズルの種類を変えてみることをお勧めします。
一般的に、低粘度のサラサラな液体には先端がストレートなノズル、高粘度のトロトロな液体には、抵抗の少ないテーパー(すり鉢)形状のノズルが適しています。 - 「温度」という名の魔法を使いこなす
高粘度の液剤で糸引きに悩んでいる場合、液剤を少し温めて粘度を下げてやるだけで、驚くほどキレが良くなることがあります。
液剤用のヒーターや、装置全体を温調するなどの方法があります。
ただし、液剤によっては温度変化で性質が変わるものもあるので、必ず材料メーカーに確認してください。 - ノズルとワークの「絶妙な距離感」を探る
ノズル先端と、液剤を塗布する対象物(ワーク)との距離も重要です。
特に糸引きは、この距離が離れすぎている場合に起こりやすくなります。
許される範囲で、ほんの少しだけ距離を縮めてテストしてみてください。 - 見過ごされがちな「静電気」という伏兵
冬場の乾燥した時期にトラブルが増えるなら、静電気を疑ってみましょう。
静電気が発生すると、吐出された液体が意図しない方向に引っ張られて糸を引くことがあります。
除電器(イオナイザ)を設置するだけで、ピタッと現象が収まるケースも少なくありません。
まとめ:小さな一歩が、大きな改善に繋がる
今回は、計量ポンプの液ダレ・糸引き問題について、その真因と具体的な対策を解説しました。
- 液ダレ・糸引きの真因は「液剤」「装置」「ノズル」の3つにある
- 液剤の粘度や表面張力といった「物性」を理解することが第一歩
- サックバックやノズル選定、温度管理など、現場で試せる対策は数多くある
難しく感じたかもしれません。
しかし、大切なのは、一度にすべてをやろうとしないことです。
まずは、あなたの装置のサックバック設定値と、毎日使っているノズルの先端を、もう一度じっくりと観察してみてください。
その小さな一歩が、必ず大きな改善に繋がるはずです。
結局、答えはいつも現場にあります。
あなたの現場が、より良いものになることを心から願っています。